大会長挨拶
「Chronobiology for Life, Society, and the Earth」
時間生物学は、さまざまな事象を地球規模で考える学際的かつ波及効果の大きな学術分野です。地球上に誕生した初期生命は、エネルギー供給源が限られていたため、特殊な環境でしか生きることができなかったと考えられています。しかし、シアノバクテリアの誕生が生命に革命を起こしました。光合成です。無限の太陽エネルギーを拠り所にして、生物は生活範囲を広げ続け、地球を隅々にまで命が溢れる奇跡の星へと変貌させていきました。その恩恵は光合成ができる植物に限らず、その植物をエネルギー源とする動物、さらにそれらをエネルギー源とする肉食の動物にまで及び、「光合成生態系」と呼ばれるエコシステムを形成しました。そして、太陽との契約によってエネルギーを得ている運命共同体の証として、そのほとんどに「生物時計(体内時計)」という共通の特性を有する仕組みが備わっているのも偶然ではないように思われます。もちろん、私たち人間も「光合成生態系」の一員であり、体内時計に基づく秩序が生命活動を支えています。
いま、地球温暖化が進み世界は気候危機に直面しています。地球温暖化の最初のスイッチとなった産業革命は、都市機能の24時間化が進む現在と地続きであり、われわれ時間生物学が取り組む課題へとつながっています。また、光合成はGXの根幹であり、新たなイノベーションの萌芽となる可能性を秘めています。2025年は、団塊世代が全て後期高齢者となり、超少子高齢社会が本格化する年でもあります。我が国では、労働人口の急激な減少と相まって、シフトワークが不可欠な行政サービスや産業・経済活動をいかに持続可能なものとするか。社会からの期待がますます高まっている今、時間生物学会が果たす役割はこれまでになく幅広く大きくなっています。
第32回日本時間生物学会学術大会では、「Chronobiology for Life, Society, and the Earth」をテーマに、生命の根源的原理からわれわれの生活、そして地球の未来を考える学際的サイエンスを京都から発信します。
(第32回日本時間生物学会学術大会会長 八木田和弘)