日本ロールシャッハ学会第28回大会

プログラム概要

1)ワークショップ 10月19日(土)10:00-12:30

A:馬場法入門 基本から学ぶロールシャッハ法の力動的解釈

堀江桂吾先生(日本女子大学)

馬場法は、馬場禮子が独自に発展させた精神分析的なロールシャッハ解釈技法を指します。量的分析に加えて、各図版に示された個々の反応語(及びそのスコア)の推移から、自我機能の働きや防衛機制を読み解き、パーソナリティを立体的に描き出す継起分析がその特徴と言えるでしょう。本コースでは、事例を通して、継起分析による力動的解釈の基本的な姿勢と具体的な方法を示し、馬場法をより身近に感じられる機会にしたいと思っています。

B:心理アセスメントの訓練-現場での実習指導・スーパーヴィジョンをめぐって-

髙橋靖恵先生(京都⼤学大学院)

心理臨床家を養成する上で必要なもののひとつとして、心理アセスメントが適切に心理療法に生かされるための訓練があります。大学院の基礎学習を経て、実践現場での活動をすすめながら、私たちは常に学びを続けます。本コースでは、ライブスーパーヴィジョンを通して、現場の指導者を含むスーパーヴァイザーとスーパーヴァイジー双方を対象に研修機会を提供できればと考えます。

※事例を募集します ロールシャッハ法を含むテストバッテリーを組んで実施された心理アセスメントの事例を募集します。

C:ロールシャッハの結果を伝えるときの言葉について―見立てからフィードバックへの変形

馬淵聖二先生(千歳烏山心理相談室)

ロールシャッハ・テストほど、実りのあるフィードバック体験をもたらすものはないと感じます。ただ、解釈をそのまま伝えてもあまり良いことは起きにくいようです。また、所見を書く上でも、折角の結果がうまく伝わるように表現できず、難しさを感じることもあるのではないでしょうか。どうすれば的を射た所見が書けるのか、相手の心に届き関係が深まるようなフィードバックになるのか、その仕組みといくつかのコツについて取り上げたいと思います。(包括システムに準拠した内容となりますが、それ以外のシステムであっても応用可能です)

D:高齢者のロールシャッハ法-神経心理学的視点も含めて

小海宏之先生(関西大学人間健康学部)

わが国は超高齢化社会を迎え、それにともなう認知症高齢者の増加が大きな社会問題になりつつあり、とくに認知症高齢者に対する適切なケアを行うためには、詳細で正確な心理アセスメントを行うことが重要となる。そこで、高齢者とくに認知症者に対する神経心理学的アセスメントおよび臨床心理学的アセスメントの双方を俯瞰して概説し、脳機能を含めた解釈法やロールシャッハ法を高齢者とくに認知症者に適用する意義などについて考える機会としたい。

E:コラージュ療法の理論と実践

中原睦美先生(鹿児島大学大学院)

コラージュ療法は表現療法の一つであり、森谷(1987)が「持ち運べる箱庭」として開発した心理臨床の技法です。個別でも集団でも実施が可能で、実施の簡便性や安全性の高さから対象は年齢や状態、病態水準などにおいて幅広く導入されています。今回は、コラージュ療法に関する理論や必要とされる倫理的配慮をはじめとする留意点についてロールシャッハ法と照合しながら講義します。その上で、受講者の状況をみながら、個人あるいは二人組でのコラージュ・ボックス法に準じたコラージュ制作体験等を予定しています。 定員:30名 画用紙・はさみ・糊は大会事務局で準備いたします。
※素材の準備:受講生各自で、「自然」「植物」「人物」「食物」「動物」「乗り物」「建物」をそれぞれ2,3枚と好きなパーツと「その他(宗教、風景、好きなもの・人、気になる切り抜き)」を20枚~30枚持参してください。サイズは、はがき大を中心にさまざまなサイズを準備してください。

  • A~Dコースは定員100名、Eコースは体験実習を行うため定員30名とします。
  • コースBでは事例を募集します。事例提供を申し込まれる方は、事例概要(書式は任意の形式で結構です)を、7月31日(水)までに、大会実行委員会(jsrpm2024@gmail.com ※@を半角に置き換えてください)へメールにてご提出ください。なお、事例の応募が多数になった場合は、ご担当の講師と相談のうえ、事例を決定いたします。

2)研究発表(口頭:一般・事例/ポスター) 10月19日(土)13:00-17:10

  • 口頭発表  一般研究・事例研究 14:00-17:10
  • ポスター発表  13:00-17:10
若手研究奨励賞

投映法研究の発展を目的として、第28回大会ではロールシャッハ学会研究助成委員会とのコラボレーションのもと「若手研究奨励賞」を企画します。40歳未満の若手研究者・臨床家による一般研究、事例研究、ポスター研究を対象に発表抄録の審査を行い、それぞれの研究から1名を表彰します。

3)特別講演① 10月19日(土)17:20-18:50

テーマ「世界の見え方の見方」

講演者:
東畑開人(白金高輪カウンセリングルーム)
司 会:
堀江桂吾(日本女子大学)

臨床心理学の歴史を振り返ってみると、ロールシャッハテストがその根っこのところにあったことに気が付く。そして、私もまた卒業研究はロールシャッハテストであった。なぜロールシャッハが臨床心理学の始源にあるのか、ここに臨床という営みと、心理学という営みの本質が浮かび上がるように思う。これについて医療人類学的な視点で考えてみたい。

4)若手シンポジウム 10月20日(日)10:00-11:30

テーマ「若手・中堅のロールシャッハ法の学びと苦悩を考える」

話題提供:
齋藤由布(峡西病院)
袴田雅大(ふわりもの忘れとこころのクリニック名古屋)
加藤佑昌(専修大学)
指定討論:
兼城賢志(大正大学)
司  会:
吉野菜穂子(駒沢女子大学)

このシンポジウムでは、若手・中堅の臨床家の悩み苦労を共有し、学会としてどのようにサポートするかをみんなで考える機会としたいと思います。アセスメント技法としてのロールシャッハ法の有効性は広く認められています。また、ロールシャッハ法の実践を通して、被検者の内的体験を理解しようとする臨床心理学的態度が醸成されることも多くの実践家に共有されているでしょう。しかし、一方で現在の若手・中堅の心理臨床家はこの技法を深めることに少なからず苦労しているようです。やるべきことが多すぎて心理検査のことに手が回らない、検査をとる機会がない、研修を受ける機会が少ない、なかなか技量が上昇しない、役に立つ所見を書くのが難しい、一人職場が多くて指導してくれる先輩や相談する人がいない、研究をどのようにすればよいか難しい、学会参加はお金がかかる(他の学会で手いっぱい)、国際学会なんかとてもとても(敷居高い)。この若手・中堅の苦労・苦悩を学会の場で共有し、どのようにこの技法を高め成熟した臨床家に成長してゆくか、それを学会としてどのように支えてゆくかについて考える場としたいと思います。

5)フリートークルーム(広報・情報化委員会特別企画) 10月20日(日)11:30-12:30

経験年数や現場の違いを超えた交流の場を設けます。日頃の疑問や意見などを自由に話しあってみませんか。新しい出会いと明日からの臨床や研究のヒントが得られるかもしれません。各自で昼食を持ち寄っていただき、出入自由、事前申込不要、参加資格不問です。委員会から、吉村聡(上智大学)・青木佐奈枝(立正大学)・人見健太郎(みとカウンセリングルームどんぐり)等が参加予定です。

6)総会 10月20日(日)12:30-13:20

7)特別講演② 10月20日(日)13:30-14:30

演題「投影法による心理アセスメントと心理療法ー再検査の試みからー」

講演者:
深津千賀子(大妻女子大学・千駄ヶ谷心理センター)
司 会:
佐藤唯(ホスピタル坂東)

私自身が心理療法を担当した事例で、アセスメント時と心理療法終了時にクライエントの同意の下に心理検査を実施した2事例について、心理療法過程との照合を試みます。一人は、自身の子どもを身体的に虐待した20代の母親、一人は「現実感がない、観念の実在感が身体から離れてしまう」と訴えて入院経験をもつスキゾイド・パーソナリティの男子大学生です。心理療法で目指したこととその過程におけるセラピストークライエント関係の変化、ロールシャッハ法やSCTに投影されるクライエントの精神内界の変化について検討し、投影法に投影される精神内界について考えたいと思います。

8)シンポジウム 10月20日(日)14:40-17:00

テーマ「ロールシャッハ法における貧困事例への臨床的アプローチ」

話題提供:
西村玲有(上智大学)
松本恵(大阪大学人間科学研究科)
宮畑麻衣(桜ヶ丘記念病院)
指定討論:
黒田浩司(山梨英和大学)
司  会:
吉村聡(上智大学)
人見健太郎(みとカウンセリングルームどんぐり)

貧困事例とは、従来から「収縮的統制」「ハイラムダスタイル」「つぶれ型」などと呼ばれてきた一群を指している。決定因や反応内容に幅がなく、起伏に乏しい臨床群である。
近年、臨床現場でこの一群に出会うことが多く、しかもこの傾向が増大しているという声も聞く。検査依頼者からの要請に応えるためにも、本人への治療に役立てるためにも、「貧困である」という所見だけでは、臨床的にはほとんど意味をなさない。「貧困事例」と一括りにしても、背後にあるパーソナリティ特徴や問題は一様でないために、精緻なアセスメントが必要とされるところである。しかし実際には、データ上に現れる情報に限りがあるために、事例理解や臨床的対応に苦労が尽きないことも事実である。
本シンポジウムでは、臨床的な理解と対応が困難であると考えられるこれらの事例について、検査結果から何をどのように読み取るのか、どのようにして臨床の要請にこたえることができるのかなどについて議論を深めたい。話題提供者には、各領域で活躍されている中堅臨床家3名に登壇いただく。これを受けて、経験豊富な臨床家が討論を加えることで、貧困事例をめぐる臨床に一石を投じる機会になることを期待したい。

ページの先頭へ戻る